病院における役割
病院薬剤師としての地位をさらに向上させ、臨床薬剤師として患者、医師をはじめとする医療スタッフに大いに貢献していくためには、日々進歩していく薬物療法について積極的に学ぶ必要があり、病院薬剤師業務を理解しておく必要があります。
6年制薬学教育の背景には、臨床薬剤師の育成という病院薬剤師側からの強い要望が挙げられ、臨床薬学、特に病態と治療、症例解析学など疾病と薬剤について学ぶことが重視されています。
病院薬剤師の業務は病棟活動が中心となり、その時代のニーズ、環境、診療報酬の改定などにより大きく変化し、長い年月をかけ多くの病院薬剤師さんの地道な活動によって発展してきました。
病院薬剤部の職務は、院内患者(入院患者)に対する業務が主流となり、医療体制としては医師は総合的に患者を診断して大きな治療方針を決定し、薬剤師は薬の専門家として個々の患者に対して最適な薬剤の選択・用量・用法を考案し、医師や全ての医療スタッフと共に治療に関わっていくことが求められます。
そのため病院薬剤師にとって最も重要な業務が「薬剤管理指導業務(病棟業務)」であり、個々の患者と向き合い薬剤の効果や副作用を直に確認し、患者にとって安心・信頼できる医療行為の一端を担う役割が重要となります。
病院薬剤師の役割は、個々の患者にとって安全で質の高い最適な薬物療法を提供することにあり、病院薬剤師の職務の概略として下記のような業務が挙げられます。より高い目標を掲げる病院薬剤師になるために、各業務を通じて研究活動も行っていく必要もあります。
調剤業務・製剤業務 |
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注射剤を含む正確な調剤 |
薬剤管理指導業務 |
病棟活動、患者薬歴管理・服薬指導 |
医薬品管理業務 |
医薬品の供給 |
医薬品情報管理(DI)業務 |
医薬品情報の提供と院内教育 |
医療安全対策への参画 |
医薬品適正使用のための院内指導 |
治験コーディネーター(CIRC) |
治験薬管理 |
院内感染対策チーム(ICT) |
他の医療スタッフと医療チームとして連携し、安全で質の高い薬物療法の提供 |
栄養サポートチーム(INST)、ジェネリック薬品等 |
処方設計へ関与し、ジェネリック薬品の有効利用も含めた薬剤費の削減や医療費の軽減への貢献 |
調剤業務
調剤業務は薬剤師業務の核となる職務であり、病院において外来患者に対して注射剤以外の薬剤を処方せんによって投薬する場合、多くの病院では院外処方を発行して、地域の保険薬局で調剤されています。
また、病院の院内製剤など特殊な薬剤を含む処方せんであったり、特定の管理を要する薬剤の処方せんである場合などは、院内処方せんとして当該病院の薬剤部で調剤します。
病院薬剤部の主な調剤業務は、入院患者に対する「入院処方せん」の調剤で、多くの場合は薬剤管理指導業務の対象となっている患者であり、薬歴の記載により処方薬の変化を知ることで、患者の状況を把握することができます。
入院患者への注射薬以外の処方は、大方1週間分を基本として「定時処方」として調剤され、また患者にとって必要な薬剤が随時「臨時処方」として病棟から薬剤部に提出され調剤されます。
入院患者への定時処方薬を調剤する場合の多くは、自動錠剤分包機によって一包化するため、その機器の機能によっても薬歴が管理できる場合があります。
調剤を行う場合には、まず処方せん監査を正確に行い、処方された薬剤の効能・効果・用法・用量等に十分注意し、薬剤の性状・特性・保存条件等を考慮して行いますが、一連の作業は調剤を行う上での当然の基本的要素となります。
注射薬の処方せんは患者の状態によって変化するケースが多いため、ほぼ毎日1日分ずつの調剤となり、処方せんに基づく注射剤の取り揃えを行い、病院によっては混合調製が行われます。
薬剤管理業務を算定するためには、当該患者の注射剤は処方せんに基づいて患者ごとにセットしなければならず、また薬剤師が必要な環境のもとで中心静脈栄養用の高カロリー輸液を調製した場合や、抗がん剤調製を行った場合には加算の算定が可能であり、病院薬剤師としての職務の幅が広がる重要な要素となっています。
注射剤の調剤は通常の調剤の注意点に加えて、薬剤の安全性・安定性・配合変化・分割使用の可否等にも注意する必要があり、薬剤師の専門性を必要とする業務になります。
薬剤管理指導業務
薬剤管理指導業務は、入院患者を対象とする注射剤を含む調剤、医薬品管理、薬歴管理、患者服薬指導などの幅広い知識と技術や技能を持って総合的に行う職務です。
規定上、注射剤の混合はなされていませんが、患者ごとにセットする必要があり、服薬指導の重要性が規定されています。
薬剤管理指導業務は、患者へのサービス向上を図る上での医薬品の適正使用や、医療チームの充実が主な目的であり、病院薬剤師のスキルを活かす最も重要な業務となります。
薬物療法の安全確保の観点から重複投与の防止、併用禁忌のチェックや副作用の未然防止など、薬物療法のリスクマネジメントとしての役割も見込まれています。
製剤業務
製剤とは医薬品を製造することで、通常は医薬品製造業者の認可を受けた企業が行います。病院薬剤師における製剤業務とは、病院薬剤師が当該病院内で調製し全て消費されるべく薬剤のことを指します。
使用頻度の高い薬剤(散剤の混合品・分包品・希釈散・希釈液の調製)を生成保管するものと、特殊な治療の際に使用する薬剤を調製するものとがあります。
製剤は調剤と異なり不特定多数に対して用いられるもので、調剤と同様に調製の過誤や異物混入があってはならない業務となります。
薬品管理業務
医薬品を「モノ」と して管理することも病院薬剤師の職務であり、以下の業務に分類されます。
- 在庫管理
医薬品を必要とする臨床の現場に事前準備を行ったり、速やかに医薬品を供給することを目的としています。医薬品の購入、供給、在庫と一連の流れを習得し、薬剤師のスキルを活かし無駄のない在庫管理を行います。
- 品質管理
品質の管理とは、使用期限、保存条件、人体に用いるにあたって相応しい状況のものであるか等を管理することです。
- 安全管理
安全管理は、その医療施設の医療の質を担う重要な医薬品管理業務の一つです。医療機関には医療安全管理部門があり、医療安全管理者が配置されています。
また厚生労働省は、病院・診療所に「医薬品安全管理責任者」を置くこと、および「医薬品の安全使用のための業務手順書」の作成を義務づけています。病院薬剤師の役割として、この部門の責務を負っていることを知っておく必要があります。
薬品安全管理業務 |
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安全管理が特に重要な医薬品 |
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「医薬品の安全使用のための業務手順書」においての「ハイリスク薬」とされているもの |
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医薬品情報管理業務 |
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医薬品情報管理業務
適正な薬物療法を行っていく上で、病院薬剤師が院内のすべての医療関係者に対して、医薬品情報(Drug Information:DI)を提供することは大変重要な責務となります。
医療施設には「医薬品情報室」などの部署が設置されていて、この配備も「薬剤管理指導業務」を算定するための要件となっています。
情報の提供には根拠となる医薬品情報が必要なため、その情報を検索収集して評価し、処理する能力が必須となります。
情報管理は各々の医薬品に関するものから、新規採用薬品や削除薬品の周知などあらゆる部分にまで及びますが、副作用が生じた場合の報告など、病院内で発生した事項を収集することも大切な業務となります。
各企業から「緊急安全性情報」が発信された場合などは、早急に周知する必要があり、また使用上の注意の改訂の情報など、医療関係者に対して理解と認識がしやすい手段で周知していくことが望まれます。医薬品情報室では医薬品以外に、医療機器についても情報管理を行っていることが多くあります。
病院内の関係者からの問い合わせや、照会があった場合にも記録に残して対応し、度重なる事柄の場合は院内に周知する必要があります。患者向けの薬剤部からの情報提供も、医薬品情報管理の業務となります。
薬品試験業務
医薬品はその安全性・有効性が確認され、適正に使用されなければなりません。薬物体内動態や薬力学を中心に据え、TDM(Therapeutic Drug Monitoring:薬物血中濃度モニタリング)を業務としている病院施設もあります。
治験業務
治験を円滑に進行させる為に院内CRCとして活動していく業務であり、特に併用薬・サプリメントの服用などに関しては、薬剤師としての知識を必要とする業務になります。
患者に十分な説明を行い、治験参加の同意を得た後は毎回の投薬を確認し、プロトコールの違反の確認や副作用が生じていないか等のチェックを行います。